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「僕と彼のどちらの方がイケメンですか」と女の子に声をかけまくっていた男の話

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「僕と彼のどちらの方がイケメンですか」

それはけしてテレビの企画というわけでもなく、センスのなさすぎるナンパというわけでもない。

だが、そのように街で女の子に声をかける男を見たことがあるだろうか。

 

非常に残念な話だが、私はある。

 

その男は私が大学生の時のバイト先の後輩だった。

今日は別に長い夜だからというわけでもないのだけれど、彼の話を少しだけしよう。

 

歳は私の3つ下だったように記憶している。

そしてバイト先の店長の息子だった。

 

一つ気をつけて頂きたいのだが、「バイト先の店長の息子」という肩書きは「会社の社長の息子」のそれと比べれば、圧倒的にどうでもいいものだ。

 

社会に出て「社長の息子」なるものが会社を歩いていれば、それなりに気を遣うものだ。

だが、バイト先で「店長の息子」が歩いていても、「なんだこいつ邪魔だな」くらいにしか思わない。

 

だが、私は後から入ってきたその店長の息子を初めて見た時は「なんだこいつ邪魔だな」とは思わなかった。

 

その店長の息子を名乗る男は、ありえないくらい店長と顔が似ていなかった。

例えるならリザードンの子供がピカチュウだと言われるくらいありえなく似ていなかった。だから私は代わりにこう思った。

 

「なんだこいつ胡散臭いな」

 

 

だが、その二人は間違いなく親子だった。

 

ただ血が繋がっていなかっただけの話だ。

 

 

それに関してはまぁそういうこともあるだろう。

何かわけがあるのだろうと思う。

 

そんなことはどうだっていい。

だが彼の性格にはいささか問題があった。

 

 

彼は阿呆だった。

 

 

先に彼の特徴について述べるならば、童顔でハーフのような顔立ちをしていた。

俗に言うイケメンと言われてもおかしくないだろう。

 

信じられないくらい声が低かった。

最初に声を聞いたときは彼の声だと思わなかった。

別の誰かが彼の中から声を発しているのだと思った。

だが1週間くらい彼と接するうちに、どうも彼自身の声だということがわかった。

 

椎名林檎を愛していた。邦楽ロックに精通していた。

「THE BAWDIES」「THE YELLOW MONKEY」なども愛していた。

 

馬鹿みたいにポーカーが強かった。

こっちがドヤ顔でフラッシュをそろえても、涼しい顔でフルハウスを見せてきた。

 

 

彼は私より年下ではあったし、性格も阿呆だったが、仕事は真面目に取り組む男だった。

私はトレーナーという立場から彼を指導することもあったが、口ではふざけたことを言いながらもちゃんと真面目に仕事をする彼を評価していた。

 

これは別に店長の息子だからとかは関係なく、彼の性格だったろうと思う。

いつしか私は彼に好感を覚え、そしていつの間にか仲良くなっていた。

 

 

私は彼と毎日のようにポーカーをした。信じられないくらい負けた。

私は格別に弱いというわけでもないのだが、彼が何故か馬鹿みたいに強かった。

生まれつきのポーカーフェイスだった。

 

 

そんな日々が続いて、私は街で彼にたまたま出会ったことがある。

前から歩いてきてすぐに彼だとわかった。

いつもよりお洒落な格好をしていた。

 

「何してるんだ」

 

「今友達と勝負してたんですよ」

 

「何を」

 

「自分とその友達のどちらがイケメンかを女の子に尋ねまくってたんですよ」

 

「・・・何を言っている」

 

「先に10票取ったほうが勝ちなんですよ。いやぁ、今日は勝っちゃいました。あのイケメンのあいつに勝てたのはでかい」

 

 

 

私は目の前に立っている男が何を言っているのかよく理解できなかった。

 

今みたいにyoutubeで企画して動画を撮るようなことが流行っていなかった頃だ。

そんな馬鹿みたいなことをする人間は私の周りにはいなかった。

 

だが、彼はそんな調子で彼の友人とともに街中へ溶け込み、どちらがイケメンなのかを問う不毛な世界へと消えていった。

 

 

 

そう彼は阿呆だったのだ。

 

 

だが、阿呆ではあったが、頭のいい男だった。

早稲田だの慶応だのに行くための学費を稼ぐためにバイトをしていた。

 

私は彼を応援していた。

確かに阿呆だが、真面目な男だし、何の因果か仲良くなったのだ。

頭もいいのだから、いつしか良い大学へ通って、真面目に就職し、成功して欲しいと思った。

 

 

そして彼は

 

 

 

気づけばホストになっていた。

 

 

 

一度だけ、たまたま街であったことがある。

ホストの勧誘をしていたようだった。

 

いかにも黒色のホストらしい格好をし、髪を伸ばし、明るく染めていた。

ブルガリのネックレスをしていた。

ネックレスはお客さんにもらったんだと言っていた。

 

 

「もうすぐNO1になれそうなんですよ」

彼は語っていた。

 

そうか。頑張れよ。

そう私が返すと、「ええ、頑張ります」と答え、街中へ消えていった。

 

 

その後の彼のことはよく知らない。

生きているのか、死んでいるのかすら、そんなことすらわからない。

  

 

 

取り留めのない話をした。

なぜ彼の話をしようと思ったのか、私にもよくわからない。

だが今日はなんとなく彼のことを思い出したから、記録に残したかったんだと思う。

 

そんな人間も私の人生にいたのだと。

どんな人間だって、個性はある。

どんな人間だって、それぞれの生き方がある。

そんなことを彼は私に教えてくれたのかもしれない。

 

 

なんだか切なくなってきた。

今日は彼の幸せを願って赤いワインを飲んで寝ることにしよう。

 

 

(fin)