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男二人だけの桜島旅行記。そして僕らは絶望した。【桜島観光】

あの日、僕らは旅に出た。あの頃の僕らはまだ若くて、世間のことなんて何もわかっちゃいなかった。あまりに無知だった。ただただ好奇心だけが旺盛だっただけ。僕らは鹿児島の桜島に旅に出た。

 

確かにそこにあったのは、ガイドブックで見た通り、僕らが期待した通りの桜島の偉大な火山だ。長渕剛がコンサートをした跡地の公園もあったし、写真で見た叫びの肖像だってあった。だけどそこで僕らが見た物はそれらだけではなかった。今思い出しただけでも恐ろしくなる、おぞましい物を見た。正直に話そう。そこで見たのはおびただしいほどの無数のカップルだった。

 

男二人で偉大な火山の島を訪れて、いったい誰が想像できただろう?いちゃつくカップルばかりの世界。その世界の中心に僕らはいた。僕らは、男二人で、たった二人で、その世界を命からがら抜け出した。晴れ渡る空、美しい青い海、そびえ立つ偉大な火山、そしておびただしい数のカップル。その旅は仕事の疲れを癒す最高の旅になるはずだった。そして絶望は始まった。

 

目次

 

旅の始まり

それは社会人2年目になったばかりの4月、今から5年前の話。当時僕は銀行で働いていて、同じ店舗に入行した同期とたまたま休みが重なった。

 

銀行では年に1回、5営業日連続で休みが取れるようになっている。その休みが自分の希望通りの日程で取れる可能性が限りなく低い話についてはとりあえずここでは置いとくが、当然僕らもほぼ強制的にその4月に休みを当然のように急に与えられた。勿論休みの計画なんて考えちゃいないし、平日だから他の友達とも予定なんて合わない。恋人だっていやしない。

 

僕ら同期は必然的に、2人でどこかへ出かけようという話になった。僕らは当時福岡で働いていて、ちょっと車で遠出できる、今まで行ったことがない所を考えた。それが鹿児島の桜島だ。福岡から車で3~4時間ほど、旅行するにはちょうどいい。絶好の快晴、4月の程よい気温、旅行するには最高のコンディションでその旅は始まった。

 

鹿児島への道のりは本当に楽しかった。仕事の愚痴を言ったり、途中で幾つかのサービスエリアに寄って美味しいものを食べたり、上司の愚痴を言ったり、そして銀行の愚痴を言ったりしていた。

 

鹿児島到着

そしてたどり着いた鹿児島。着いた僕らはまず、別に有名でもないわりと普通のラーメン屋に寄ってお腹を満たし(しかしラーメンはとても美味しかった)、フェリーで桜島に向かった。フェリーから望む桜島は美しかった。ただ、そのフェリーの時点で、何か不吉な違和感を感じずにはいられなかった。

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フェリーからの桜島。ご覧の通りの快晴。

 

フェリーに車を乗せて、桜島も基本的に車で移動して回った。僕らはガイドブックを買ってはいたけれど、正直あまり見ていなくてどこを回ったらいいかよくわからなかった。だけどそこら中に案内板は立っていたし、適当に回っていれば名所に行くことができた。しかしそろそろ、僕らがフェリーの時から感じていた違和感の正体を議論せずにはいられなくなった。

 

周りカップルしかいない説

 

いや、おかしい。なぜかさっきから周りにカップルしか見当たらない。桜島にカップルしかいないのはおかしい。なんかもっと、子供とか連れてる家族とか、サークルの遊びとかで来てる大学生たちがいるのをイメージしていた。だが違う。カップルしかいない。なぜだ。

 

ここが例えば、恋人の聖地と呼ばれるような場所ならわかる。そんなロマンチックな場所に行ったことはないけれど、そういうところに恋人しかいないのはわかる。しかしここは桜島だ。火山だ。海だ。自然だ。いや、わかるよ?そりゃデートで来るのは勿論わかる。だけどカップルしか来てないのはわからない。何かイベントがあるような雰囲気もない。僕ら男二人は完全に浮いていた。心の準備もして来なかった。ちょっと待ってくれ。これは何の罰だい?

 

僕らはここに、仕事の疲れを癒しに来たんだ。非日常を味わって、1週間リフレッシュして、また頑張れるように、ここに来たんだ。違うから、いらないから。僕ら二人の周りにはカップルしかいないなんて、そんな非日常なら、いらないから。僕らはもう、さ迷うしかなかった。

 

日本遊歩百選に選ばれた遊歩道

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日本遊歩百選の一つ

 

僕らは桜島にある遊歩百選というものに選ばれた、その長い長い遊歩道をひたすら歩いた。時々すれ違うカップルたちには漏れなく舌打ちをプレゼントしてあげた。見渡す限りの素晴らしい景色だったが、相棒は10分に1回「なんで俺らこんなとこに男二人で来てんだろうな」と言っていた。僕は3秒に1回同じことを心の中で呟いていた。

 

凄く長い足湯もあった。温泉好きな僕らは喜んだ。隣でカップルたちがお湯をかけあって楽しそうにしていた。僕らは心の中でお経を唱えて無心になろうと心がけた。

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本来はこの足湯で日頃の疲れを癒せるはずだ

 

赤水展望広場・叫びの肖像

 

長渕剛がこの場所でコンサートを開き、その跡地を整備して作られたという広場。そして桜島溶岩を使って作られたモニュメント「叫びの肖像」。

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叫びの肖像

なんて素晴らしい肖像なんだろう。僕らは感激で胸が震えたことを今でも強く覚えている。僕らの今の心の中を、的確に表現している肖像だったからだ。この肖像は何を叫んでいるかわからないけれど、きっと僕らと同じだろう?僕らは叫びたかった。強く強く叫びたかった。この肖像のように。溢れんばかりの、嫉妬と悲しみを。

 

普段は桜島も、家族などの色々な観光客で賑わっているらしい。僕らが出くわしたあの風景は特殊だったのだろう。今思えば、あのカップルだらけの風景を写真に収めておけば良かったと少し後悔している。だけど当時、僕らにそんな勇気がなかったことは理解してもらえると嬉しい。あのおぞましいものたちを携帯に収めてしまったら、もしかしたら孫子の代まで呪われたトラウマが続くのではないか、そんな恐怖に包まれていたんだ。

 

僕らはそうして桜島をあとにした。普段は頻繁に降ると言われている火山灰も、僕らが滞在していた時は降らなかった。いつもなら降り注ぐ火山灰を、僕らが滞在していた時だけ止めてくれていたのは桜島のせめてもの優しさだろうか、それとも、憐れみだろうか。

 

(fin)